日々雑感

とりとめのない感想

消えない記憶を銀河へ送ってもらった

山形ビエンナーレ2020  「言葉よ さようなら」 で、マヒトゥ・ザ・ピーポーに私の記憶と言葉を、手の届かない遠くのどこかへ送ってもらった。

 

配信を観るために開いたYou Tubeの画面にマヒトが映し出され、一人目の言葉が朗読された時、その人の言葉と記憶の重さに押しつぶされそうになった。そして、自分の記憶と言葉は、今日選ばれた人たちのそれと比べて、大したことのないものではなかったかと思い、恥ずかしくなった。

 

次々に読まれていく記憶は、人の記憶なのに自分が切られていくみたいに痛く、涙が止まらなかった。私、大丈夫かな、最後まで観られるだろうか、そう思いながら画面を見つめていた。ギターの音、トランジスタラジオのノイズ、マヒトの咆哮、なんども繰り返される「言葉よ さようなら」。この人は、すべての人の記憶と言葉を受け入れようとしているのではないかと思い、心配で申し訳ない気持ちになった。

 

誰にも話したことのない遠い昔の生々しい記憶を、私はなんで送ったんだっけ?聞いてほしかったのかな?よくわからない。

私の心の奥底にずっとあったそれを、そこに置いていいよと言われてその川辺に置いてきたような気がする。それをマヒトゥ・ザ・ピーポーに拾ってもらったんだな、きっと。

 

気がつくと私の記憶は、他の42人の記憶といっしょに、ゆらゆらと空中を漂っていた。私の記憶も他の人たちの記憶と同じように大切にしてもらっていた。大したことない記憶ではなかった。

 

そして、そのゆらゆらとしたものたちは、最後、マヒトがアンプからシールドをばんっと抜いた瞬間に銀河に飛んでいったと思った。もう私の手元にそれはなく、宇宙のどこかで永遠に漂っている。私は夜空を見上げて、懐かしいと思った。あそこに私の記憶がある。